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横浜地方裁判所 昭和39年(ワ)650号 判決

原告 東武石材工業株式会社

被告 城田フミヱ 外一名

主文

(一)  被告伊藤は、原告に対し、金八〇七、三〇〇円及びこれに対する昭和三九年四月二〇日より完済まで年六分の割合による金員を支払うべし。

(二)  原告の被告城田に対する請求を棄却する。

(三)  訴訟費用は、原告と被告伊藤との間においては、原告について生じた費用の二分の一を被告伊藤の負担とするほか、その余は各自の負担とし、原告と被告城田との間においては全部原告の負担とする。

(四)  第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告等は各自原告に対し金八〇七、三〇〇円及びこれに対する昭和三九年四月二〇日より完済まで年六分の割合による金員を支払うべし。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、請求の原因として次のとおり述べた。

(一)  被告城田は昭和三九年二月一七日、金額三〇〇、〇〇〇円、三〇〇、〇〇〇円、四〇〇、〇〇〇円、いずれも支払期日昭和三九年四月二〇日、支払地及び振出地横浜市、支払場所株式会社住友銀行横浜支店、受取人東武石材工業株式会社なる記載のある約束手形三通(以下単に「本件各手形」と称する)を振出した。

(二)  本件各手形の受取人の記載はいずれも原告会社とされているが、これらはいずれも被告城田が振出の際受取人欄に「伊藤健治」(被告伊藤)と記載すべきところを、誤つて「東武石材工業株式会社」と記載したのであつて、本件各手形の真実の受取人はいずれも被告伊藤であつた。

(三)  そして被告伊藤は、いずれも支払拒絶証書作成義務を免除したうえで、原告に本件各手形を裏書譲渡した。

(四)  従つて、本件各手形は形式的には裏書の連続を欠いているが、実質的な権利移転の過程において欠けるところはなく、原告は有効に本件各手形上の権利を取得したことになる。

(五)  原告は、本件各手形をいずれも支払期日に支払場所において支払のため呈示したところいずれも支払を拒絶された。原告は現に本件各手形の所持人である。

(六)  よつて原告は、被告城田に対しては振出人として、被告伊藤に対しては裏書人として、本件各手形金の内金八〇七、三〇〇円及びこれに対する支払期日である昭和三九年四月二〇日より完済まで手形法所定年六分の割合による利息金の支払を求める。

被告城田は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、「被告城田が原告主張(一)の本件各手形を振出した事実は認めるが、原告主張のその余の事実は争う。本件各手形は被告伊藤の依頼によつて振出したものであり、その際原告会社社員黒沢某と被告伊藤が被告城田に対し、本件各手形については被告伊藤が支払の義務を負い被告城田には支払の責任を負わせない、という特約をしていたのであるから、被告城田には本件各手形金支払の義務はない。」と答弁した。

被告伊藤は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、「原告主張の(一)ないし(四)の事実及び原告が本件各手形の現所持人であることは認めるが、その余の事実は知らない。」と答弁した。

証拠〈省略〉

理由

一、被告城田に対する請求について

被告城田が本件各手形をそれぞれ振出したことは当事者間に争いがなく、甲第一ないし第三号証(被告城田の印影が同被告の印章によるものであることは争いがなく、被告伊藤本人尋問の結果によつてそれらが真正に成立したと認めることができる)と被告伊藤本人尋問の結果を総合すると次の事実が認められる。被告伊藤は、原告会社から石材を購入するに際して、原告会社から、被告城田振出の約束手形によつて代金の支払にあてるならば右取引に応ずる旨の申入があつたため、被告城田から同人名義で総額一、〇〇〇、〇〇〇円の約束手形を振出してもらうことの承諾を得て、同被告の印章を預り、昭和三九年二月一七日原告会社事務所において同会社社員黒沢某立会の上で、額面四〇〇、〇〇〇円、三〇〇、〇〇〇円、三〇〇、〇〇〇円の三通の本件各手形を作成した。右手形の作成については、被告伊藤はすべて原告会社社員黒沢某の指示に従い、受取人欄に「東武石材工業株式会社」と記載し、さらに第一裏書欄に裏書人の氏名を被告伊藤と、被裏書人の氏名を東武石材工業株式会社(原告)と記載して、右手形をそれぞれ原告に交付したのであつた。右のとおり認めることができ、右認定に反する証拠はない。

右認定のとおり、本件各手形の記載によると、本件各手形の受取人は原告会社、第一裏書人は被告伊藤であるから、本件各手形の裏書が連続を欠いていることが明らかである。ところで原告は、本件各手形の真実の受取人は被告伊藤であり、受取人欄に原告会社名が記載してあるのは誤記であつて、実質的な権利移転の過程においては欠けるところがない旨主張するが、手形の裏書が連続しているかどうかは、手形に記載されたところに従つて純形式的に判断すべきことがらであつて、手形外の事実によつてこれを補充することは許されないのであり、裏書の形式的連続が欠けている場合に、実質的権利移転の過程を証明して、手形所持人が適法な手形上の権利者であることを証明することが許されるのは、裏書の断続した受取人と第一裏書人または被裏書人とこれに次ぐ裏書の裏書人との間に有効な手形上の権利移転が行われていて、断続部分が架橋され、裏書の連続を回復することができる場合でなければならない。

しかるに原告の主張は、右の範囲を超えて、本件各手形の裏書の連続を回復するため、手形上の記載が誤記であるとしてこれとは別の手形外の事実を主張し、これによつて手形上の権利の実質的移転過程を証明しようとするものであるから、原告が本件各手形を裏書により取得した所持人として振出人たる原告に手形金の請求をしようとする限り、許されない主張である。

のみならず、さきに認定したところによると、本件各手形の受取人および第一裏書人の記載は、原告会社社員黒沢某が被告伊藤に指示を与えてさせたのであるから、原告主張のように単なる誤記ということもできない。

いずれにせよ、本件各手形は裏書の連続を欠いており、このままでは、原告は適法な所持人として、被告城田に対し手形上の権利あることを主張することができないのであるから、その余の点を判断するまでもなく、原告の被告城田に対する請求は失当である。

二、被告伊藤に対する請求について

原告主張の(一)ないし(四)の事実は当事者間に争いがなく、右の各事実によると、被告伊藤は本件各手形金債務を負担する意思で原告に本件各手形を裏書譲渡したものといわなければならない。そして原告が現に本件各手形を所持していることも当事者間に争いがなく、原告が本件各手形を各支払期日に支払のため支払場所に呈示したことは、甲第一ないし第三号証の記載によつてこれを認めることができる。

してみると、被告伊藤は原告に対し本件各手形金支払いの義務を負つており、その内金合計八〇七、三〇〇円とこれに対する昭和三九年四月二〇日(各支払期日)から完済まで年六分の手形法所定利息金を支払わなければならない。

三、結論

よつて、原告の被告城田に対する本訴請求を理由なしとして棄却し、被告伊藤に対する本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条、第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石沢健)

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